笠岡モデルとは
笠岡モデルは、船員不足という社会課題を解決することを目的として考案された取り組みです。このモデルは、岡山県笠岡市に所在する「岡山県西南海運組合」を主体とし、「船員の健康確保に関する検討会」で座長を務めた久宗周二氏、あおばおうちクリニックの黒田洋平医師、そして弊社、株式会社ヒゴケンのもとで立ち上げられました。
本モデルでは、産業医や専門家による労働衛生の管理と安全対策を強化することで、船員が安心して働ける環境を整備し、船員の定着率向上と新規採用の促進を目指しています。船員を大切にする船社の支援を行い、内航海運業界全体の労働環境を改善することで、船員不足の解決に貢献することを目的としています。
岡山県西南海運組合の歴史と課題
岡山県西南海運組合は、31社の組合員を擁し、全国で38隻の貨物船を運航する海運組合です。その歴史は大正時代に遡り、隣接する神島の製錬工場の物流を支える形で発展してきました。地域に根差した海運業は、長年にわたって順調に運航されてきましたが、近年では全国的な船員不足の影響を受けており、人材確保が喫緊の課題となっています。
特に、若手船員の獲得が困難になっており、組合では地元の工業高校に足を運ぶなどの採用活動を積極的に行っています。しかし、船員の労働環境の厳しさや、大手船社との競争の中での待遇差が課題として残っています。こうした背景から、組合としても、船員にとって魅力的な労働環境を整備する必要があると認識されるようになりました。その一環として、2025年1月(令和7年)より、船員の健康と働きやすさを支援する「笠岡モデル」の運用を開始しました。
笠岡モデルを立ち上げるに至った経緯
2023年4月に施行された船員法の改正により、従業員50人以上の船社には産業医の設置が義務付けられました。しかし、50人未満の中小船社については産業医の設置が努力義務とされており、実際に導入している船社はほとんどありません。この結果、大手船社では労働環境の改善が進む一方、中小船社との格差が拡大し、人材獲得の競争力が低下する懸念が生じています。
全国の内航海運業者の大多数が中小規模であることを考えると、大手並みの労働環境を整備することは、業界全体の人材確保と定着につながる重要な課題です。しかしながら、産業医の設置や労働環境の改善には金銭的・事務的な負担が伴うため、中小船社にとっては容易に取り組めるものではありません。さらに、船員一人が離脱するだけで船の運航に支障をきたすという特性を持つため、職場環境の改善は急務となっています。
このような背景のもと、中小規模の船社が集まる岡山県西南海運組合を活用し、組合が主体となって産業医と契約を締結することで、各船社の負担を軽減する「笠岡モデル」が考案されました。
笠岡モデルで提供される取り組み
助成金を活用した産業保健サービスの提供
笠岡モデルでは、厚生労働省の産業保健活動総合支援事業を活用し、団体経由産業保健活動推進助成金を利用。中小規模の船社でも産業医や保健師などの専門職と契約しやすい仕組みを整えています。これにより、各船社の経済的負担を抑えながら、労働環境の改善が可能となります。
産業医が指定医を兼ねる仕組み
笠岡モデルでは、産業医が指定医を兼ねる仕組みを導入しています。
通常の指定医は、年に一度の健康診断結果に基づき、船員手帳へ乗船可否のサインをする役割を担います。しかし、健康診断時のみ関与する指定医では、船員の普段の健康状態を十分に把握できず、適切な判断が難しいケースもあります。
笠岡モデルでは、産業医が指定医を兼ねることで、以下のメリットが生まれます。
- 船員のストレスチェックや職場環境の状況を把握し、健康診断時の判断精度が向上
- 日常的なオンライン診療の実施により、船員の健康状態を継続的に管理
- 労働環境改善と医療サポートを一体化し、船員の安全と健康を総合的に守る
この仕組みにより、従来の指定医よりもより適切な乗船可否の判断を行い、船員の健康維持をサポートします。
ハラスメント対策のロールプレイングプログラム
船内は長期間にわたり閉鎖的な環境となるため、対人トラブルやハラスメントのリスクが高まることがあります。そのため、笠岡モデルではロールプレイング式のハラスメント対策プログラムを導入。
実際の職場で起こり得る状況を再現し、適切な対応方法を学ぶことで、船員同士の関係性を良好に保ち、トラブルを未然に防ぐことを目的としています。
船内の医薬品管理と服薬サポート
法定備品の医薬品管理
船舶には船員法に基づき、一定の医薬品が法定備品として備えられています。しかし、これらの医薬品は適切な管理や補充が徹底されていないケースも多く、必要な薬が不足する事態が発生することがあります。笠岡モデルでは、薬剤師による医薬品の在庫確認や補充の提案を行うことで、船員の健康リスクを軽減します。
一般用医薬品(OTC)の服薬サポート
生活習慣病の治療薬を服用している船員が、風邪薬や鎮痛剤などの一般用医薬品を併用することで、副作用や薬の相互作用が発生するリスクがあります。また、船会社がドラッグストアなどで購入した医薬品を管理せずに備えている場合、誰がどのように服用するかが不明確になり、誤った服薬につながる可能性があります。
笠岡モデルでは、オンライン服薬指導や相談サービスを通じて、適切な薬の使用方法をアドバイスし、船員の健康管理を支援しています。
期待される効果
笠岡モデルの導入により、船員の労働環境が改善されることで、以下のような効果を期待しています。
船員の健康維持と医療アクセスの向上
オンライン診療や服薬指導の活用により、乗船中でも適切な医療サービスを受けることが可能となり、生活習慣病の悪化や突発的な体調不良によるリスクを軽減できます。船員の定着率向上と新規人材の確保
健康管理や労働環境の改善により、船員が長く安心して働ける環境が整い、離職率の低下が期待されます。また、働きやすい職場環境が整うことで、若手人材の確保にもつながります。船社の経営安定化
船員の健康が維持されることで、病気や怪我による長期離脱が減少し、船の安定運航が可能となります。また、産業保健サービスを活用することで、労働環境改善にかかるコストを抑えながら、持続可能な経営が実現しやすくなります。中小船社の競争力向上
大手船社と同等の労働環境を整えることで、人材確保の面での競争力が向上し、採用活動が円滑に進むことが期待されます。人手不足解消の有効な手段となり得ます。全国への波及効果
笠岡モデルは、特定の地域や組合に限定された取り組みではなく、全国の中小規模の海運業者にも適用可能な仕組みです。本モデルの成功を通じて、他の地域の海運組合や船社が同様の取り組みを導入し、全国的に船員の健康管理と労働環境の改善が進むことを目標に、日本の内航海運業界全体がより持続可能な形で発展していくことを期待しています。
笠岡モデルは単なる一地域の試みではなく、全国の内航海運業界における船員不足や労働環境改善の課題に対する解決策として広く波及することを目指しています。
笠岡モデル参加支援組織
- 岡山県西南海運組合 電話番号: 0865-60-0340
- 船員労働科学研究所 電話番号: 070-8334-3865 https://www.wib-or.com/
- あおばおうちクリニック 電話番号: 050-3774-3191 https://aoba-zaitaku.net/
- 西部調剤薬局 電話番号: 078-575-6177 https://hm-labo.jp/
活動内容
株式会社ヒゴケンでは海運業界の人手不足問題を解決するための取り組みとして下記の活動を行っています。
船員健康研究会
日本の海運業界では、少子高齢化の影響により船員不足が進行し、将来的に船舶の運航に支障をきたす可能性が高まっています。その背景には、船員の高齢化による引退の増加、高齢船員の健康問題、そして過酷な労働環境による若年層のなり手不足といった課題があります。「船員健康研究会」は、専門家・有識者によるこうした問題の解決を目指し、船員の健康維持や労働環境の改善を通じて高齢船員の健康支援、職場環境の改善、若年層が魅力を感じる仕組みづくりの提案を進め、持続可能な海運業界の未来を築いていきます。
船員健康研究会メンバー一覧
- 船員労働科学研究所
電話番号: 070-8334-3865 https://www.wib-or.com/ - あおばおうちクリニック
電話番号: 050-3774-3191 https://aoba-zaitaku.net/ - 株式会社ヒゴケン 西部調剤薬局
電話番号: 078-575-6177 https://hm-labo.jp/ - 株式会社おうら海運
電話番号: 078-330-7802 http://olakaiun.com/